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監督の基本的に生真面目で大仰な作風が、大仕掛けのアクション時代劇に驚くほど合致していた。しかも「権力の腐敗、機能しない秩序」「そのなかで生きのびようともがく人々」という過去作に通じるテーマでもあるので、嘘がない。仲野太賀の圧倒的な素晴らしさに負うところも大きい。本誌読者に観てほしいかどうかという基準で考えると、星を減らす理由が見当たらなかった。マイベスト岡本喜八作品「斬る」にも少し似ているところ、去年たまたま新発田城を見物した記憶も味方した。
ファミリー感溢れるアウトロー群像劇という「日本統一」シリーズなどでおなじみの話法による、極道一家クロニクルの第1部。伝説のヤクザ三兄弟が再集結するまでを描いた物語なので、本当に盛り上がるのは第2部以降なのだろう。せっかく長尺で在日アウトロー家族の年代記を描くのだから、もっと生活のディテールを丹念に織り込んでもいいと思ったが、ジャンルの定番描写とキャストの見せ場を積み重ねるのに忙しく、その余地が埋没しているのが惜しい。喫煙シーンの弱さも気になった。
全篇「帰んなよ、もう」と思いながら観ていた。そんな選考方法で新入社員を選ぶ会社なんざ願い下げだと、最近の優秀な若者こそ思うのではないか(一応、平成末期っぽい設定だが)。劇中のセリフどおり「いい会社に入ることしか考えてない学生」としか、作者が登場人物を見ていないことに辟易。優位に立つ目上の者(企業)に対してまるで反発しないまま自己解決を図る社会人のタマゴという、リアルなモダンホラーを描くならわかるが、誰もそこを突破しないので風通しはすこぶる悪い。
最初は豪華キャストとシリアスな語り口に目を奪われるが、徐々にリアリティのない展開が目立ち、鼻白む。冤罪というテーマは、袴田巖氏の無罪確定のおかげでまさにアクチュアルな題材のはずだが、いまどき「あの人がそんなことするはずない」「信じてるから」といった人情劇に終始するのは古風に過ぎる。物語の核となる冤罪の形成過程もさすがに甘い。韓国映画を意識したような映像演出もあるが、力技に頼らず確固たる作品理解で「最適な語り口」を見出す本質までは模倣できていない。
賊軍として捨て駒にされた十一人にとって戦う理由はただ死なないため。官軍から砦を守るという使命よりも、血まみれ、泥まみれで生き残るための死闘を繰り返す。そんな彼らそれぞれに壮絶な見せ場を用意する脚本と演出が痛快で、155分の3割近くを占める戦闘場面も多種多様。けれども最も口中が苦くなったのは、新発田藩の家老による官軍向けの斬首パフォーマンス! 北野武監督「首」が冗談に思える蛮行で、がこれが結果として。嘘も方便ならぬ,蛮行も政治的方便とは、現実にもあるある。
俳優で劇団の主宰者でもある崔哲浩の監督デビュー作「北風アウトサイダー」(22)を観たとき、その前のめりな血の絆と負けん気に、井筒和幸監督の初期作品を連想したのだが、今回は血の絆だけではなく、さらに前のめりな暴力抗争が描かれ、画面から血が飛び散る勢い。ただ百鬼組の三兄弟はともかく、敵対するいくつもの組や構成員など、登場人物が多すぎるのと、時間軸がジグザグするのがややこしく、しかも話が尻切れトンボ! 各俳優陣の熱気に溢れた演技や凝ったカメラアングルには感心する。
就活中は月と同じで表面しか見せない、と6人の1人が言う。世間では、外側は本質である、とも言うけれども。ま、それはともかくこの作品、ただ漠然と観ている分には面白くなくもないが、次々と1人ずつ槍玉に挙げて相手の弱みや過失をいじくり蹴落として、という展開は、かなりイヤラシく不愉快で、次第に6人が哀れに見えてくる。むろん、どんでん返しのための仕掛けではあるのだが、就活生でオハジキごっこをするな!と脚本、監督に喝をいれたくなったりも。6人の俳優たちはみな頑張っているが。
緩急のある手際のいい演出につい身を乗りだす。がいくら娯楽サスペンスという枠の中での話であり設定だと分かっていても、主人公の扱いの乱暴さにはさすがにオイオイ!日本の警察が犯人をでっち上げることは今さら珍しくはないが、一家3人殺しの容疑で逮捕された主人公は、そのままズルズル死刑囚に。その彼が逃亡しての1年間で、TPOに合わせた変身はまさにプロ級、演じる横浜流星、目立たず、騒がず、黙々と、髪型や目つきまで変えて映画を引っ張っている。でもやっぱり乱暴な印象は拭えない。
笠原和夫の原案プロットをほぼ生かして脚色しており、よくぞ作り上げたと感嘆。ただし、追加された阿部サダヲのパートが尺を取りすぎ、155分は長い。白石作品ではおなじみの、演出に介入する美術監督・今村力の不在が惜しまれるが、砦に吊り橋と空間のお膳立ては申し分なし。だが、戦いの場面は夜・煙・雨と視界不良が続き、戦場の空間の広がりが見られず。各キャラの描き分けも俳優の資質に負う部分が大きく、埋没する者も。贅沢を言えば、往年の時代劇スターが重しに欲しかった。
撮影所の時代に作られたやくざ映画と、Vシネマの時代に作られるそれは似て非なるものだが、隙間に双方の魅力が凝縮されたインディペンデントのやくざ映画がある。予算が限られようが、作劇の均衡が崩れようが、やりたいことを詰め込んだ作りは巧拙を超えて見入ってしまう(逆光のキラーショットも嬉しくなる)。殊に監督自身のアイデンティティを投影した在日やくざ像が鮮烈だが、大人数を捌く交通整理のために埋もれた感がある。続篇は登場人物を絞って、じっくり見てみたい。
「大学は出たけれど」「就職戦線異状なし」「何者」に連なる就活映画だが、本作では企業が昔ながらの身辺調査で堂々と素行をあげつらうので驚かされるが、一捻りしてある。しかし、グループディスカッションでどんな暴露があっても、最初に設定した時間ごとに投票を行うことを全員が律儀に守るところからして就活ゲームでしかない。6人採用予定の企業が急遽1人のみに変更した時点で経営が危なそうなのはともかく、浜辺だけが正義のまま傷つくこともないのはかえって損な役回り。
原作未読で予備知識なく目にしたので、別々の俳優が同一人物を演じていると信じ込んでしまった。横浜流星の見事な演技の変化は、顔の骨格まで別人に錯覚させてしまう。袴田さんの無罪や、八田與一の逃亡ともリンクするタイミングの公開だけに、現実を上回る虚構を見せて欲しかったが、古典的な“逃亡者もの”に収まった感。前半は犯人情報の提示がTVを通してばかりなのも単調。不利な証言をする重要目撃者の女性や、痴漢冤罪事件など、女が男を陥れるという構図の強調が気にかかる。