1920年代の混乱のドイツ。ハンブルグ劇場で喝采を浴びる人気スターに燃えるような嫉妬を抱く男がいた。この劇場の役者ヘンドリック・ヘーフゲン(クラウス・マリア・ブランダウアー)だ。彼は役者としての実力を身につけると同時に名誉や地位に対しても貪欲だった。恋人である黒人ダンサー、ジュリエッタ(カーリン・ボイド)は彼を愛しながらも、彼が本気で他人を愛することのできない男だと知っている。社会は、まさにナチス第3帝国が勢力をふるっていた。この権力に抵抗するコミュニストのオットー・ウルリヒス(ペーター・アンドライ)は、ヘーフゲンの友人であるが、オットーのような確固たる態度は彼にはとれなかった。そんなころ、彼はリベラリスト、ブルックナー教授の娘バーバラ(クリスティナ・ヤンダ)と知り合い、プロポーズする。しかし、この結婚は空しいものだった。二人の生活は冷えていったが、その間に、彼は養父の力を利用して念願のベルリン国立劇場の団員になることに成功。そこで彼は着実に人気を得、ゲーテの『ファウスト』のメフィスト役では決定的な地位を掴んだ。しかしその間時代は刻々と変貌していた。ナチス政権が樹立し、バーバラはパリに亡命。左翼運動をしていたヘーフゲンは苦悩するが、州首相(ロルフ・ホッペ)の愛人ロッテ(クリスティーネ・ハルボルト)の力を利用して州首相に取りつく。コミュニストから親ナチスに変ったヘーフゲンは州首相に気に入られ国立劇場の総監督という地位を得るがバーバラとは離婚、ジュリエッタも去った。そしてヘーフゲンの命乞いも空しく、ウルリヒスは銃殺される。栄誉を得たと有頂点になっていたヘーフゲンにも疑惑が生じる。「自分に何を望んでいるのだ。私はただの役者なのに」。