ウェストファリアのワンダー・テン・トロンクの城にカンディド(C・ブラウン)という青年がいた。その名のとおり純真で心やさしく、“すべてこの世はあり得る世界の中で最善である”と教える教師のパングロス博士(J・エルラン)の教えを心から信じていた。そして彼は城主の美しい娘クネゴンダ(M・ミラー)に想いを寄せていた。だがある日、その二人が草むらの中で抱きあっているところを目撃され、カンディドは城を追放されてしまう。故郷を追われた彼は、一度の食事とひきかえにブルガリア兵にさせられ戦争に狩出された。残虐な殺し合いの果てに傷つき、生死の境をさまようが、思いがけなくもパングロスに再会する。彼によれば、カンディドが去ったあと城は悪魔のような敵軍に襲われ、クネゴンダは百二十七回も犯された上、斬り殺されたという。そんな二人を待っていたのは、異端者を裁判にかける審問の場で、一たんは死刑を宣告されたものの何とかそこから逃れることが出来た。やがてカンディドは黒人奴隷のカカンボ(R・ドンフィー)と知り合い旅を続けるが、どこで聞きだしたか、カカンボはクネゴンダがこの近くにいるという。カカンボのいったことは本当だった。クネゴンダは相変わらず美しかったが四人の男たちの共同の所有物になっていた。絶望したカンディドはヨーロッパを離れ、アメリカに向かった。ニューヨーク。この巨大な街の象徴は摩天楼とコマーシャル・テレビだ。そこで盛大にくりひろげられるコロンブス・ディの祝典の模様を中継するテレビ・カメラのディレクターは何とパングロスだった。そしてクネゴンダは、「史上最高のオルガスムス」なるいかがわしいショウのヒロインとしてアメリカ中に名が知れていた。またしてもショックを受けたカンディドはカカンボと共に、血で血を洗う内乱の地アイルランドにやって来た。そこで彼は、イスラエルの女兵士募集のポスターの中にクネゴンダを発見した。だが、一足違いでクネゴンダはアラブの兵士と駆け落ちしたあとだった。カンディドが次に迷い込んだのは老人だけの異常な村だった。ここで出逢ったクネゴンダは年老いてみるも無残な有様だった。いったい何のために自分はこの残酷な人生を歩んできたのか。ここにも現われたパングロスは河に流れていく象徴を見ていう。象徴をつくり、流す。これが運命だ、と。河の向こう岸には新しいカンディドが、あのトロンクの城に向かって旅立とうとしている。「行くな、ろくなことはないぞ」。そのカンディドの言葉をカカンボがさえぎった。「行かせてやりなさい。何度でもくりかえす、それでいいのさ」。