大人たちは少年時代を思い出しては、楽しかったという。が、十二歳のアントワーヌ(ジャン・ピエール・レオ)には、毎日がいやなことの連続だ。その日も、彼は学校で立たされ、宿題を課せられた。が、親子三人暮しのアパートには共かせぎの両親が帰る前に、日課の掃除が待ってい、口やかましい母親と、妻の顔色をうかがう父親とのあわただしい食事がすむと、そのあと片づけで、宿題をやる暇はなかった。翌朝、登校の途中、親友のルネと出会うと、彼は学校へ行くのをやめ、二人で一日を遊び過した。それはどんなに晴れ晴れとしていたことだろう。が、午後に、街中で、見知らぬ男と母親が抱き合っているのを見た。視線が合った。その夜、母の帰宅は遅かった。父との言い争いの落ち行く先はアントワーヌのことだ。彼は母の連れ子だった。翌朝、仕方なく登校し、前日の欠席の理由を教師に追求されたとき、思わず答えた。母が死んだのです。が、前日の欠席を知った両親が現れ、ウソがばれた。父は彼をなぐり、今夜話し合おうといった。その夜、彼は家へ帰らず、ルネの叔父の印刷工場の片隅で朝を迎えた。母は息子の反抗に驚き、学校から彼をつれもどした。風呂に入れて洗ってくれた。精一杯優しく彼を励ますが彼は心を閉ざしてしまっていた。翌日から平和が戻ってきたように見えた。親子で映画にも行った。が、ある日の作文で、アントワーヌは尊敬するバルザックの文章を丸写しにし、教師から叱られ、それを弁護したルネが停学になった。彼も、欠席して家を出、ルネの家にかくれ住んだ。金持の子の、大きな家の一室で、食べものを探しながらの生活は、たいした冒険だった。やがて金に困り、ルネと共に、父の勤める会社のタイプライターを盗みだした。が、金にかえることができず、もとに戻しに行った時守衛に捕った。父親は彼を警察へ連れていく。非行少年として少年審判所へ送られた。護送車の中で初めて涙が出た。母親は少年に面会もせず、判事の鑑別所送りのすすめに応じた。鑑別所で、束縛された毎日のあと、やっと母親が面会にきた。ここが似合いだよ。母は冷かった。アントワーヌは監視のスキに、脱走した。駈けた。野を越えて。海へ、海へ。初めて見る海は大きかった。見捨てられた彼をゆるやかに迎えた。彼は浜に立ちつくした。