豪奢だが、どこか冷たいたたずまいを見せる城館に、今日も富裕らしい客が、テーブルを囲み、踊り、語って、つれづれをなぐさめている。まるで凝結したような、変化のない秩序に従った生活。誰も逃げ出すことの出来ない毎日なのだ。この城館の客である一人の男が、一人の若い女に興味をもった。そして男は女に、「過去に二人は愛しあっていた、彼は女自身が定めたこの会合に彼女を連れ去るために来た」と告げた。男はありふれた誘惑者なのか、異常者か?女はこの突飛な男の出現にとまどった。だが男は真面目に、真剣に、そして執拗に、少しづつ過去の物語を話して聞かせながら言葉をくり返し、証拠を見せる……。女はだんだん相手を認めるようになった。しかし、女は今迄自分が安住していた世界を離れることに恐怖を感じた。それはやさしく、遠くから彼女を監視しているようなもう一人の男、多分彼女の夫である男によって表現される世界であった。だが、彼女は、男によって、真実性を帯びてくるつくられた話に抵抗できず、ためらい、苦悩する。今や苦悩は女の現実であり真実となった。現在と過去はついに混り合った。三人の間の緊張は女に悲劇の幻想さえおこさせたが、ついに女は男の望んだ通りの存在であることを受け入れ男とともに、何ものかに向って立ち去った。それは、愛か、詩か、自由か……それとも死かもしれないのだが……。