一七九七年から一八一一年まで、シャラントン精神病院院長クールミエ氏は、入院患者の治療手段の一部として病院内で、患者自身による芝居を定期的に行なった。一八〇三年から一八一四年に死ぬまでの間、そこの患者だったサド侯爵(P・マギー)は、ここで行なわれた多くの劇の台本を書き、そして演出した。その当時のパリでは、その精神病院を訪れ芝居を見ると同時に、狂人たちの奇怪な行動をみることがはやっていた。そして今日もまた、そのひとつが上演された。フランス革命の過激派の領袖ジャン・ポール・マラー(I・リチャードソン)がシャルロット・コルディ(G・ジャクソン)という女に暗殺された事実にもとずく劇である。歴史上のふたりの極端論者の激しい衝突が描かれる。マラーは、社会改革よりは激烈な革命を求める男、サド侯爵は、厭世的個人主義者である。マラーは社会問題に全身を浸しており、サドは、それらからまったく遊離している。いくつかのエピソードがつづられて劇は進みやがて、マラーとサドの相対するふたりの人物の間に、悲劇は偏執狂的な若い女性シャルロットがあらわれ、浴槽につかっているマラーを短刀で刺殺して幕が下りる。小さな象徴的な狂気の世界を背景に、革命について、社会についてそして人間の運命について重大な問題が提起されて、映画もまた終る。が、それら問題の解答は何ひとつ与えられない。解答は観客自身が発見しなければならないのである。