口やかましい妻君に日夜悩まされている中年の菓子外交員パオロは、或朝商売に出る汽車の中で美しい女性に出会った。バスの中で再び偶然顔を合わせた時、彼は女が何か曰くありげなのに気付いた。女マリアは、ひとりで都会へ出ているうち、恋人の子を妊ったが、男には逃げられ、働くことも出来ず、今実家へ帰ろうとする所であった。この身上話をしながらマリアは、頑固者の父をごまかすためほんのちょっとの間、夫のふりをして一緒に実家へ来てくれぬかと、パオロに頼む。人の好い彼は結局マリアとの同行を承諾した。実家では娘が結婚して戻って来たというので大騒ぎになった。パオロはひっこみがつかなくなり、不承不承その夜はマリアと同宿させられる羽目におちいった。部屋を抜け出したパオロは戸外の乾草の中で夜を明かし、翌朝マリアの父の案内で農場に馬車を走らせた。二人の心には暖いものが流れ合った。しかし、マリアの家へ戻ると、パオロの鞄の中の写真から、嘘がバレてしまっていた。激怒した父親はマリアを勘当するといきまいた。パオロは静かに彼をなだめた。父の心も和み、パオロは気特よく自分の家へ房って来た。しかし、そこでは、出かけた時と同じ妻君の小言が、またもや彼に襲いかかって来るのだった。