大都会ベルリン。大通りに面した宮殿の様に立派なホテルの豪壮な玄関に年老いた門番が立っていた。彼は金ピカの制服を着て得意然としていた。彼はがっしりとした大男で軍人らしい頬髭をはやしていた。将軍にも見まごう自身の姿に誇りを感じ、金モールの制服を何よりも愛した。こうしてこの姿で裏町の我家に帰って来る時程幸福なことはなかった。悪戯小僧達が羨望の眼を以て彼を仰ぎ見るから。しかし重い荷物を持ちあぐねている姿を支配人に見咎められて、地下室のトイレ係に左遷された。彼は何よりも金モールの制服を着ないで家に帰らねばならないのが悲しかった。だが娘の結婚式にはどうしても制服で出席せんと思い悩んだ末、とうとう制服を盗むに至る。やがて全ての事実が明るみとなり、裏町の人々や娘からも嘲笑の的にされる。彼は苦しみ嘆き、残すはひっそりとした死を待つのみであった。そこへ運命はこの老人に思いもかけない遺産を授けた。彼は一躍して門番どころか富豪として立派な服を着ることが出来た。かつて自分を嘲笑した支配人の驚く顔を見ながら、シャンパンの盃を傾け、呵々大笑するのであった。