プロスペル・マルタンは学位まで持っている人物だが、今は落ちぶれて自動車の掃除人か何かをやっている。しかし根が楽天的な性格で明るく暮らしていたが、一日思いがけない旧友に巡り合い女学校の先生の口を世話して貰う事になった。御馳走になってアパートの近くへ帰って来ると、若い女が倒れかかっているので、親切なマルタンは近くのカフェへ連れ込んで、何か世の中に絶望しているらしい彼女を慰めはげまして別れた。家へ帰ると部屋の入り口で赤ん坊の泣き声がする。抱き上げると元気な男の子だ。ともかくマルタンはこの坊やを自分のベッドで寝かした。朝になるとマルタンは坊やを警察へ渡したくない程可愛くなった。この坊やピエロの母は若い娘で、金持ちのドラ息子に棄てられ、食うに困って男の部屋へ赤ん坊を置いて帰ったのである。父親はそれをこっそり他の部屋の入り口へ移してしまった。それがマルタンの部屋で、昨夜助けた若い女が坊やの母親だったけれど無論マルタンは知る筈がない。女学校の口が決まって帰ってみると、アパートには坊やの父親の代弁人が坊やを探して育児院に入れようと来ている。マルタンは坊やをバスケットに入れ、危うく虎口を脱して静かな田舎町の女学校へ赴任した。無論独身者の彼は坊やを宿舎へ連れて行く訳にはゆかぬ。ひとまず町に預け夜中にこっそり塀を越して部屋に連れ込み、誰にも判らぬように育てようというのだ。お転婆で生意気盛りの女学生達は、すぐマルタン先生の怪しい挙動に気がついた。一人が梯子をかけて窓から覗くと先生は赤ん坊をあやしている。翌朝教室で生徒達は先生の赤ん坊をすっぱ抜いた。マルタンは授業を止めて立ち上がった。赤ん坊は拾った子だ。しかし秘密を知られたら辞めねばならぬと言った。生徒達はすっかり後悔した。「先生、辞めないで下さい。赤ん坊の母親には私達がなります」と同音に叫んだ。それ以来、生徒達には素晴らしい楽しみが出来た。皆が一組づつ交代で坊やの世話をした。しかしとうとう塾長先生に見つかってマルタンと赤ん坊は追放される事になった。女生徒は一室に篭城してそれに反対した。所がそこへ職についた坊やの母親がピエロ坊を引き取りに来た。彼女はマルタンの顔を見て、かつて自分を助けて呉れた人が今は法律上にも坊やの父親になっている事を知り、優しい彼の胸に顔を寄せて泣いた。塾長先生も今はこれを見て楽しげに微笑むのだった。