風俗嬢の道子は、琵琶湖の湖畔を愛犬のシロを追って走り続け、1年以上が過ぎた。かつて、仕事に疲れ、失意のどん底にいた道子はみすぼらしい野良犬のシロとの出会いに運命的なものを感じた。そして、銀行員の倉田からジョギングシューズを贈られたことがもう一つの刺激となって、本格的なジョギングを始めたのだった。8月末のある日、葛篭尾崎の先端で道子は狂おしい笛の音に誘われ笛を吹く男・長尾に出会った。私はこの人に会うためにシロに導かれ走っていたのでは……。秋雨の降る10月のある日、シロが何者かに殺された。そして、犯人が今をときめく作曲家の日夏であることをつきとめた道子は、復讐を誓い、東京まであとを追うが、寸前のところで逸してしまう。抜け殻のようになって琵琶湖に帰った道子は、倉田との結婚を決意する。それから数日後、シロの墓参りに葛篭尾崎へやってきた道子は、偶然、長尾と再会し、激しく心が乱れた。長尾は道子に笛の由来とそれにまつわる先祖の話をした。--戦国時代、小谷城のお市の方につかえる侍女にみつという娘がいて、領内に住む地侍・長尾吉康の吹く笛の音に誘われて、2人は出会い、互いに惹かれるのだが、信長の浅井攻めにあい、2人は結ばれず、みつは信長に葛篭尾崎の先端で逆さ吊りの刑に処せられた。そして、吉康は死んでいったみつのために、湖上で心をこめて笛を吹いた。その笛の音にはまるでみつの怨念でものり移ったかのように、結ばれるべくして結ばれなかったものの悲しみを漂わせていた--話を終えた長尾は自分は吉康の子孫で、葛篭尾崎の先端で笛を吹けば、誰かに逢えるという伝説を祖父から聞いたと言う。そして宇宙科学の研究のためアメリカへ帰るので、自分と結婚し一緒に行ってくれと頼む。しかし、道子は長尾の話に心を揺さぶられながらも、その申し出を断った。しばらくして、道子の前に偶然、日夏が客として現われた。道子は夢中で出刃包丁を握り、逃げる日夏の後を追い、やっとのことで日夏をとらえ、シロの敵を打つのだった。ちょうどその頃、スペース・シャトルに乗り宇宙へ出た長尾は、琵琶湖の遥かかなた上空にいて、あの笛を宇宙空間に置き、これで琵琶湖がたとえ幻の湖となろうと、永遠になくなることはない、とつぶやくのだった。