ある夏の暑い日、川べりの家に、街の工場に住み込みで働きに出ていたもんが、妊娠して帰って来た。トラックの運転手をしている兄の伊之吉は、あらんかぎりの悪態をついてもんをののしった。かつて川の護岸工事の親方をしていたことを誇りに生きている、今は落ちぶれてしまった父の赤座もまた、もんを冷たく突き離した。口ごたえせずに耐えるもんをやさしくかばうのは、母のりきと妹のさんだった。ある日子供を堕ろせ、とつめよる伊之吉に我慢しきれないもんは、りきとさんが止めるのを振り切って家を飛び出した。以来、もんからの便りはとだえ、伊之吉は毎日のようにもんの写真を持って盛り場を捜し歩いた。その頃、もんはストリップ小屋で売子として暮していたが、些細なことから流産してしまった。ある日、もんを妊娠させた男、小畑が川べりの家を訪ねた。子供は堕ろしてくれたか、とたずねる小畑に赤座はすっかり失望し、もんが流産したことを伝え、家から追い出した。その小畑を伊之吉が帰る途中に掴まえ、殴り、蹴倒し、さんざんな目にあわせた。そして自分がもんを小さいころから可愛いがり、いかに大切な妹であるかを聞かせるのだった。一方、末の妹のさんには互いに好きあっている鯛一という男がいるのだが、彼が養子のためにひけ目を感じて、親のすすめる縁談を断わりきれず、さんの気持を裏切って結婚することになったのだった。流産してからのもんは水商売の世界を転々とした。派手なパラソル、炎のような髪の色、体の線を強調したドレス、きつい化粧。久しぶりに家に帰って来たもんは、もうどこから見ても商売女だった。それでも母や妹の前で土産を広げて雑談に興じている時は、昔ながらのもんにかえっていた。そこへ伊之吉が帰って来た。悪態をつく伊之吉を無視していたもんだが、伊之吉が小畑をさんざんな目にあわせたことを知ると、逆上して食ってかかるのだった。伊之吉は家を飛び出したが、土手を登る彼の頬を涙が伝わっていた。翌日、橋を渡って帰るもんとさんの後から、伊之吉のトラックが追いかけてきた。「バカ! どこへ行くんだ」「バカだけ余計だ」「早く、乗れ!」「乗ってやろう」兄と妹を乗せてトラックが走る。「帰って来るんだぞ! 遠くへ行くなよ……」ハンドルを握りながら、ポツリと言った伊之吉の言葉に、もんの顔が涙でくしゃくしゃになっていった……。