吉岡まさるは十九歳、地方から上京してきて、新聞配達をしながら予備校に通っている。三百軒以上もの玄関に新聞を入れる単調な肉体労働の上に、集金に行けば、どこの家からもうさん臭さがれ、無視される。吉岡は配達区域の地図をつくり、各家々の名を書き込み、犬がいるから×印一つ、花があるから×印二つなどとランクをつけ、それぞれの家に嫌がらせの電話をかけたりしている。吉岡の同室には三十七歳になる独身男、紺野がいる。ホラばかり吹いていて何も出来ないダメ男の紺野に、吉岡は反吐が出るような思いがする。そんな紺野の前に、自殺未遂の末、片足が不自由になった女が現われる。男と寝ては生活の糧にしている娼婦であるその女は、紺野に輪をかけて、醜く、汚なく、そして孤独だ。そんな女を紺野は“マリア”と呼んで慕う。吉岡には、二人は大人の人間の汚なさの象徴に見える。やがて女は身籠り、はじめて幸福な気持になった紺野は、女のために、生まれてくる子供のために、その幸せを完成させようとするが、生来の世渡りの不器用さからうまくいかず、強盗傷害を犯して掴ってしまう。吉岡は女をなじった。女は「死ねないのよ……」と悲痛な言葉を吐き続ける。吉岡のやり場のない怒りは、すべての人間に向っての脅迫電話となった。東京駅や街のガスタンクの爆破予告を続ける。「のうのうと生きてる皆んなを吹っとばしてやる!殺してやる!ほんとだぞ!……」電話を終えたあと、吉岡はただ泣くばかりだ。その涙は、人間とは、人生とは、社会とは、その最深部を見、知ったことの代償なのだ。