この島は、南は入江、他の三方は断崖絶壁に囲まれ、大小三棟の囚人小屋と役人の住居、見張り番所、柵、半鐘を吊るした物見台があるだけだった。女だけが流刑される、この周囲一里たらずの孤島を、人々は、おんな島、ごくもん島と呼んで恐れていた。このおんな島に流刑されていた女囚は十一人、そして今日、お清とお仙の二人と、長崎奉行所の吟味役だったが、不行跡のためお役御免となり、この島に左遷されて来た諌早三郎太が到着した。灼けつく太陽を全身にあびての水汲み作業と井戸掘りは女囚たちにとって最も苦しい仕事だった。目も眩む断崖絶壁で命綱を腰に結び、岩間から流れ出る真水を汲み、一滴でもこぼせば、役人の鞭が唸りをあげてとんで来る。また、井戸掘りは、固い岩場を掘りつづけなければならなかった。こうした激しい労働と、わずかしか与えられない食物の毎日は、彼女たちの、はけ口のない情欲と、どろどろに絡みあい、凄惨なリンチや刑が続発していた。ある日麻薬中毒のお仙が体中に黒い斑点だらけになり、苦しみのたうちまわって死んだ。呆然と見守る女囚たちの前を野鼠が走った。鼠が病原菌を媒介してペストが発生したのだ。一瞬にして恐怖の島と化し、驚ろいた役人たちは女囚を置きざりにして島を逃げだそうと秘かに準備を始めるが、役人たちの動きを感じた女囚たちは、逆に舟を乗っ取って島を出ようと、手に手に棒をかざし、北の岩場目がけて駆け出した。ギラギラ照りつける太陽の下で、一度に爆発した怒りは、敵味方の見境いもない、血まみれの修羅場と化していった。、一足先に舟に乗り込んだ女囚たちは本土に向って荒海にと漕ぎだした。