童子を乗せた箱車に、“子を貸し腕貸しつかまつる”墨痕鮮やかな旗差物たなびかせて進む狼人の姿が、街道の人々の眼を惹いていた。人呼んで“子連れ狼”。いかに困難な依頼も必ず果たす凄腕の刺客と恐れられている拝一刀親子流浪の姿だった。その拝一刀の胸には、柳生一族への怒りと恨みが激しく燃えていた。拝一族が勤める公儀介錯人の役職を狙った柳生一族は、一刀に“徳川への反逆”の汚名を着せ、職を追い、妻をも殺害したのだった。この窮地を脱した一刀は一子大五郎と共に、血と屍の魔道に生きることによって、怨念を柳生一族に叩きつけようとした。ある日、殺しの依頼がきた……。依頼者小山田藩江戸家老市毛の狙いは、国家老杉戸監物一味の、世嗣暗殺計画を壊滅させることだった。一味が、世間のはみ出し者たちばかりが寄りつく峡谷の湯治場にひそんでいることを知った一刀は、早速目的地に向った。、子供連れと侮りいたぶる無法者たちの暴言暴挙にも耐えた一刀は、枕探しお仙の命を救うため衆人のなかで、彼女と肌を合わせる恥辱に動ぜず、ただひたすら時を待った。そして、その機会がやってきた。暗殺計画決行を伝えるため監物が湯治場に姿を現わしたのだ。計画遂行のためには手段を選ばぬ一味は、秘密維持のため湯治客の皆殺しを図った。騒然となった湯治場の中を大五郎を乗せた箱車を押した一刀が、一味に向って進んでいった。鎖鎌の鬼火、手裏剣の名手紋之助、道場破りのしがらみの丹波、曲者ぞろいを相手に一刀の業物同太貫の豪剣が唸っれた。そして箱車が武器に一変した。押柄が長巻刃の得方となり、箱車は盾になった。小山田三人衆も、監物も倒れた。累累と横たわる屍を残し、一刀は立ち去る。涙で見送るお仙の瞳に、大五郎の可愛い笑顔がにじんで消えた。