葛西杏子は三歳の時、警視庁刑事の父を目の前で殺された。犯人の記憶は全くないが父の手に残された猪・鹿・蝶の三枚の花札がその手掛りだった。そして二十年後、明治三十八年。金沢で政界の黒幕民政会の黒川の襲撃に失敗して逃走中の柊修之肋という男を、通りすがりの女博徒・猪の鹿お蝶が助けた。そのお蝶こそ、葛西杏子が成人して華麗に変身した姿だった。彼女は仕立屋お銀というスリの女親分の養女として育てられたのである。お蝶は、おゆきという女郎屋に売られた少女を捜して東京・浅草に来た。おゆきは、加納組々長キズ源の手配によって、黒川を後楯としている岩倉土建の社長岩倉直蔵に抱かされようとしていた。お蝶は博奕で、おゆきの身柄を賭けようと岩倉に申し出た。岩倉はクリスチーナという外国人の女を代人に立て、勝負は英国貿易商ギネス邸で争われた。勝負の最中、同邸に居合せた黒川を求めて壮士たちが乱入して来た。あざやかなクリスチーナのピストルさばぎで壮士たちを追い払ったが、その中に柊の姿を見つけたクリスチーナは動揺した。二人は柊が医学生として英国留学中に知り合い、愛し合った仲だったのである。そしてクリスチーナが諜報部員として日本に来た本当の理由だったのである。やがて、動揺したクリスチーナはお蝶との勝負に負けた。おゆきを助け出したお蝶は、おゆきから岩倉が鹿の刺青をしていることを聞いた。父の仇の一人が岩倉だったのである。数日後、お蝶は再び警官に追われている柊を、かくまった。そして、二人はいつしか互いに求め合うままに抱きあっていた。一方、お蝶が柊をかくまったことを知ったキズ源は、お蝶のスリ仲間を拉致し拷問にかける。それを知ったお蝶は岩倉に身を委ねた。美しいお蝶の肉体に狂喜した岩倉だが、すぐに悶絶してしまった。彼女の体に毒が塗ってあったのだ……。柊の話から、黒川の背に猪の刺青があるのを知ったお蝶は黒川を襲うが、逆に捕われてしまった。しかし、そっと彼女を逃そうとした女がいた。黒川の妻八重路で、彼女こそお蝶の生みの母で、かつて黒川と結托して葛西を殺し、出奔したのだった。猪、鹿、蝶とは黒川、岩倉、そして八重路のことだった。しかし、お蝶は脱走できず、八重路は黒川の手に掛って殺された。一方、スパイの任務を終えたクリスチーナは、ギネスの罠にはまり、柊ともども殺されてしまった。やがて、お蝶は独力で縄抜けして、父の仇、黒川を襲い、恨みをはらすのだった。