緋本治夫25歳。大都会のある大学病院で病理学を専攻しているインターンである。病院では、塩見菊江の一人息子、和彦の脳手術を、宮地教授が行おうとしていた。治夫は、この医学の権威を背負っているような尊大な宮地に対して憤りを覚えていた。ある日、治夫は高校で同級だった井沢英子と再会した。英子は都心の地下街にある高級理髪店でマニキュア・ガールをしている。治夫はその店のマスターが英子と関係があるのを感じ、英子をマスターから奪う決心をした。夜、二人は酒を飲み、英子のアパートで抱きあった。治夫は、英子の成熟しきった肉体に陶酔し、昂まりゆく行為の中で、眠っていた獣性が目覚めてきた……。一方、治夫の母・多津子は郊外のモテルで働いていた。彼女は長年にわたる放浪のすえ、長男である治夫との生活を願っていた。しかし、治夫は七年前、多津子の姦通の現場を見て以来、親子の縁は切ったつもりだった。マスターを殺したい程憎んでいる、と言う英子に治夫は「憎い奴は殺すまで憎め」と言い放つ。やがて、英子は治夫の言う通り、毒薬をマスターの瓜にしみ込ませ殺してしまった。二人は完全犯罪に酔った。だが、その陶酔が去った後、二人の間に亀裂ができはじめた。英子が女房気取りになり始めたのである。治夫は英子から逃れるように、子供のことから親しくなった菊江に接近していった。だが、嫉妬した菊江の夫・雄二は英子に、全てをバラしてしまった。治夫が自分から離れたことを知った英子は、多津子にマスター殺しを打ち明けた。さらに、警察にも知らせようとした。多津子は、そんな英子に優しくふるまいながら、英子を毒殺した。そして、多津子は治夫に、英子を殺したと告げた。なぜ? と問いかける治夫に、多津子は、これで自分も息子と同罪になれた、と答えるのだった……。