すき通るように白い肌、黒髪を無雑作に束ねた朱の簪、そして、細くしなやかな肢体が紫紺の蛇の目傘とともに宙を舞った瞬間、傘の柄に仕込んだ細身の白刃が一閃し、柴山源蔵は絶命した。それは凄絶なまでに美しい修羅雪の舞いだった。柴源を葬ったお雪は、東京の外れにある乞食集落に、日本全国の乞食を束ねる松右衛門を訪れた。金儲けのため集落の崩壊を目論んでいた柴源殺害のお雪の交換条件は、乞食組織総動員しての、竹村伴蔵、塚本儀四郎、北浜おこのの探索だった--。明治6年。この年、日本では年史上初の徴兵令が布告されたため日本中が騒然となり、農民の一揆が相次いだ。そんな時、布告を悪用し、農民から金を騙し取った竹村、塚本、おこの、正景徳市の四人は、小学校教師の鹿島剛と息子の司郎を撲殺し、剛の妻・小夜を犯した。一味は村から逃亡したが、徳市は小夜に殺された。やがて徳市殺害の罪で無期徒囚となった小夜は、教悔師や看守を誘い、生まれてきた子・お雪に彼女の怨念の総てを託すと、女囚の三日月お寅、タジレのお菊に見守られながら息をひきとった。お雪は、間もなく出所したお富にひきとられ、元旗本の僧侶・道海和尚のもとで、修羅の子として剣術の激しい修業をつんだ--。松右衛門の連絡で竹村伴蔵の所在が知れた。竹村は娘・小笛と二人で貧困と病苦の中で暮していた。小笛は土地のヤクザ・浜勝から身体を代償にして生活費を借りていた。その頃、お雪は浜勝一家に草鞋をぬいだ。そして、賭場でイカサマを見破られた竹村を救い、初めて彼と対峙した。お雪は怨念の刃を斬り下げた。竹村が自殺したことにして、お雪は小笛を、関東一円のスリの親分・タジレのお菊のもとへ逃がした。塚本儀四郎はすでに死んでいる、という松右衛門の知らせがあった。塚本の墓前に飾ってある生花を一刀のもとに斬るお雪。その場を通りかかった男がいた。その男、足尾竜嶺は、平民新聞を発行するかたわら、人の弱点をついて強請る恐喝屋でもある。彼は、お雪に興味を持ち、道海和尚からお雪の生い立ちを聞いて、小説「修羅雪姫物語」を新聞に連載した。だが、竜嶺は、事実無根の小説を書いたと巡査に連行された。丁度、その場に居合せた小笛は、巡査の一人から料亭“花月”のマッチをスリ取り、彼らがニセ巡査だと見破り、お雪に急報した。おこのは“花月”の女将となっていた。そして、竜嶺はおこのを影で操つる男をみて愕然とした。お雪は“花月”に乗り込み、竜嶺を救出したが、追いつめられたおこのは首を吊って死んだ。竜嶺は知っていた。その男はおこのを殺してお雪の復讐が終ったように見せかけたのだ。竜嶺に抱かれて寝るお雪の顔は、安らぎに眠る女の顔だった。しかし、やがてお雪は、塚本が生きていることを知った。死を偽装した塚本は、時代の波に乗り、鹿鳴館を舞台にして死の商人となって金と権力をつかんでいたのだった。お雪と竜嶺は、貴族たちが欲望と快楽をむさぼっている鹿鳴館に変装して乗り込んだ。塚本を見付けたお雪は斬りかかった。が、その前に立塞がったのは以外にも竜嶺だった。彼と塚本とは親子だったのだ。お雪の怨念の白刃は、二人を串刺しにした……。全てが終ってしまったいま、炎上する鹿鳴館を後に遠ざかるお雪の心はむなしかった……。