朝倉じゅん子はすべてが灰色に見える空しさを感じていた。吉岡との結婚生活もすでに三年、新劇女優をやめて家庭に入ったのだったが、その吉岡は常に夢を追い、未だに定職もなく、その上、何日も無断で家に帰って来なかった。じゅん子は白鳥座に亡兄の友人で、劇作家の石黒を訪れ、離婚の相談をしたがとり合ってくれなかった。その夜、吉岡との間で、何気ない会話のうちに二人の離婚が決った。じゅん子は再び白鳥座に復帰した。理事の奥田には嫌味を言われたが、人のいい宇田は心からじゅん子を迎えてくれた。じゅん子が引越したアパートの隣部屋には、全学連の辛島という学生が住んでいた。そんな頃、宇田の奥さんが亡くなった。その葬式で石黒の別れた奥さんをじゅん子は知った。その晩、じゅん子は、宇田と語り合い彼が自分を愛していることを知った。辛島の部屋からは男女学生たちの安保反対の討論が声高に聞えてくる。だが、そんな話はじゅん子には全然興味のないことだった。稽古場も「安保問題研究会」のビラが貼られ稽古が中止になる日が多かった。安保闘争は日毎に激烈になって行った。辛島が怪我をしてアパートに帰って来た。留置場に入れられたという辛島に、じゅん子は今までにない愛情を感じ、ホータイをしてやったり夕食を作ってやったりした。深夜の稽古が終った晩、じゅん子は石黒と帰った。その時、じゅん子は石黒にかつて借りた金を返した。石黒はそんなじゅん子に求婚をした。じゅん子は石黒が信じられず逃げるように去った。翌日、国会前での乱闘で女学生が死んだ。石黒も怪我をして病院に入院した。じゅん子はそのまま病院に泊りこんで看病することになった。じゅん子は石黒の世話をしながら思った。「他人から見れば私は笑うべき結婚をえらんだ。石黒は不実な夫かもしれない。けれど彼の男の奥底にある人間をすべてつかまえよう。それが、私の今の充たされた生活なのだ--」と--。