寛太は松村学級の人気者だ。六年生にしては体格は平均以上あるのだが、成績の方はかなり下回っているようす。そんな寛太の一番の仲良しはボスの奥村、いつも二人は一緒だ。寛太は地面に穴を掘るのが好きだった。それを知っているもう一人のボス、ヤマキンが、ある日、送電線の鉄塔が並んでいる広場で声をかけた。「お前頭が良くなりたいやろ、それやったらここに穴掘ってそん中へ入り首だけ出しとるんや、電波の作用で頭が良くなるで」寛太はそれを信じて身体を埋めた。やがてヤマキン達は帰ってしまい、夕焼けも終って灯がつき始めた。そこへ通りかかった奥村のお姉さんがびっくりして助け出してくれた。寛太は、親切でとてもきれいなこのお姉さんが松村先生のお嫁さんになったらなあ、と思うのだった。学校委員選挙の日、奥村は自分を投票するように頼んでおいたのだが、寛太は名前を書き間違えてしまった。奥村は、カンカンだ。貸本屋の矢崎が、ヤマキンの父親の大切にしている茶杓を持ち出そうといいだした。矢崎におどかされたヤマキンは、寛太をだまして茶杓を盗ませようとした。実際に家の中に忍び込んで茶杓を持ち出したのは矢崎だったが、覆面をしてうろついていた寛太はヤマキンのお父さんに会ってしまった。お父さんは松村先生の所へ相談に行ったが、先生にはどうも寛太が人のものを盗んだとは思えなかった。奥村が本当のことを聞き出そうとしたが、ヤマキンから口止めされていた寛太はなんにも喋ろうとしなかった。前の男の約束を思い出したからだが、噂は学校中に広がってしまった。そんな時、学校の裏の広場で矢崎と出会った寛太は、茶杓を返すように言った。けれども逆におどかされた寛太は夢中で矢崎に飛びついて、死にもの狂いで取っ組み合った。運よく警官が駈けつけて茶杓は無事戻ったが、寛太は最後までヤマキンのことは口に出さなかった。やがて卒業式の日がやってきた。寛太とヤマキンは同じ中学校へ行くことになった。寛太の家を訪れたヤマキンは、屋根の上にいる寛太と一緒に大空に浮んでいる白い雲をそっと見上げるのだった。