藩主黒田長政は、領下の豪族宇都宮鎮房との戦いに敗れ、敗走を統けていた。そんな折も折長政の下に後藤又兵衛討死の悲報がつたわってきた。幼い頃から兄とも友とも思っていた又兵衛の死に、長政はしばし涙にくれた。が、そんなところに槍を杖にした全身血まみれの又兵衛が帰ってきた。思わぬ又兵衛の生還に黒田陣はわきかえった。そんな一同の喜びをよそに、又兵衛は今夜が夜襲をする絶好の機会であることを告げた。しかし長政はこの報告に半信半疑であった。が、又兵衛は、そんな長政を後に、一党を引き連れて宇都宮陣になだれこんだ。長政もこれに続いた。この勇猛果敢な奇襲に宇都宮陣は大混乱し形勢は逆転した。戦いに敗れた鎮房は、嫡子花若と娘鶴姫を人質に、和を乞うた。長政も、いったんは、これを承知したものの、ある日鎮房を城に呼び、欺し討ちにかけた。怒った鎮房は、激しく長政に迫った。欺し討ちには承服できなかった又兵衛だが、長政の危機をまのあたりにみて、心ならずも鎮房を倒した。長政はさらに、鶴姫、花若の処刑を命じた。さすがの又兵衛も、この長政の冷酷さにあいそをつかし、花若、鶴姫を救い、そのまま、彼を慕う家来を連れて、浪々の旅に出た。そして七年の歳月が過ぎた。又兵衛は鎮房の七回忌供養に訪ねた尼寺で鶴姫に会った。又兵衛の真情を知った鶴姫の心は激しく動いた。京からかけつけた今は立派な武士となった花若も、これを聞き茫然となった。父の仇又兵衛を討つことが花若の生きがいだったのだ。又兵衛も二人の立派に成人した姿を見て思い残すことはなかった。始った大阪夏の陣に、鶴姫から贈られた鎮房遺愛の兜をかぶった又兵衛の勇姿があった。