予想屋の源三や早川が一目をおくほど競馬通の河辺は、会社では平凡なサラリーマンとして日々を送っていた。ある日、競馬場で知った峯岸という男をコーチして十六万円を儲けさせたのだが、実は峯岸は河辺の会社の新社長だったのだ。競馬に凝った峯岸は早速、河辺を秘書室付きに任命して、競馬データの収集をやらせた。河辺の妻みちえは、夫の安月給を補うため歯科医をやっているが、いままで堅く禁じていた競馬で河辺が出世してくれれば、と自らも競馬の研究を始めたのである。ところが、みちえの競馬熱が昂じるにつれて、河辺は競馬に興味を失っていった。競馬は自分の命の次に大切な金で儲けるから面白いので、社長のためにビジネス化されては面白味がない、と河辺は思っていたのだ。そんなあいだに峯岸は、次第に競馬に自信をつけていたが、ある日、大阪へ出張するため、三十万円を河辺に渡して大レースに「3-7」の一本買を依頼した。峯岸の狙いは大穴だったから、どうせ駄目だと思った河辺はその金を飲代に使ってしまった。ところが、峯岸の狙いは的中、河辺がその馬券を買っていれば五百万円の配当がついたのだ。慌てた河辺はその五百万円を峯岸に返すため源三やみちえとレースの研究を始め、データ算出の結果、木曜日の第九レースに狙いをつけ、大穴を狙って「1-4」に二十万円を投じた。だが、それはハズれた。馬券を捨てて茫然自失している河辺たちの耳に、ルール違反があって「1-4」が当りと報じるアナウンスの声が聞えた。紙屑回収問屋に走って死にもの狂いで当り券を探した河辺は、無事五百万円を峯岸に返すことが出来た。この出来事で、河辺も峯岸ももう競馬はやめて社業に専念すると誓ったが、翌日の競馬場には、相変らずレースに熱狂する二人の姿が見られた。