明治の初め。北陸の片田舎の小作人弥肋は、冷酷な地主の大沼長兵衛のために、馬車でひき殺された。しかも、妻のすえ、娘のあさはそのために長兵衛の家で働き、大沼家の苛酷な仕打ちに耐えねばならなかった。あさを愛し将来を誓った捨松にも、何らなす術はなかった。そんなある日、大沼家の庭に現われた一匹の蛇を使用人たちの手から助けようとしたすえが、長兵衛に鞭打され、それがもとで死んでしまった。すえの葬られた土饅頭の上に、一匹の白蛇がとぐろをまいているのが見られた。またあさも、長兵衛の息子武雄に犯され、あまりに悲惨な一家の運命に絶望して自害して果てたのだった。怒り狂った捨松は、間もなく行なわれた武雄の婚礼の席に躍り込み、追われて山奥で死んだ。この頃から、大沼一家はすえの亡霊に悩まされるようになった。すえの亡霊には、いつも蛇の影がつきまとっていた。長兵衛の妻が食卓につけば茶碗の中に消し炭があったり、長兵衛の行く所にはすえの亡霊が現われた。また武雄が新妻きぬを抱くと、きぬの白い肌は蛇の鱗でおおわれていた。そんな毎日がつづき、武雄は発狂し、自ら咽喉笛を鎌で切って死んだ。その死体には、蛇の鱗がびっしり付着していた。恐怖に駆られた長兵衛は巫女を呼び、蛇という蛇をかり集めて火の中に放り込むのだった。大沼家は次第に廃屋と化して行った。ある日、長兵衛はすえ、あさ、そして弥助の亡霊に追われ、刀を振り回したが、血まみれて倒れたのは政江だった。しかし蛇に襲われて刀を振り回す長兵衛はすでに発狂、ついには自らの咽喉に刀をつきたてて果てたのだった。