哲也と万里子は、お互の会社勤めに忙しい日々を送っていた。そんな毎日に不満を覚える万里子は、毎年夫婦二人だけの旅行を計画して来たが、未だ実現したことはなかった。今年もまた哲也が、仕事の都合で旅行の中止を口にする始末だった。そんな夫に対する不満は、万里子をひとり旅に駆りたてた。小さな港町に降りたった万里子は、夕陽を浴びて行きかう漁船や黙々と働く若ものたちの姿を清々しい気分で眺めた。以前、万里子の実家で働いていた勝江の一家は、暖かく万里子を迎えた。だが、その歓待にもかかわらず、万里子は心の寂しさを隠すことが出来なかった。勝江に勧められるまま、万里子は哲也に電話をかけた。しかし、哲也の声は仕事の多忙を告げるのみで、万里子の最後の期待ははかなく崩れ去っていた。憤然と立ちつくす万里子に、明るい声をかけたのは繁男だった。その晩、繁男が友人の昌夫を伴って万里子を訪れた。万里子は繁男の無遠慮な態度に驚いたが話合ううちに彼の素直さに好感を抱くのだった。そこへ哲也から明日行くとの電報が届いた。繁男はいたたまれず万里子に愛を告白し、哲也は来ないと断言した。万里子は、うわべではそれを否定したものの、繁男の直情的な言動に動かされた。そして哲也との結びつきを翌日の到着に賭けるのだった。翌日、繁男と万里子、昌夫と繁男の婚約者京江の四人は駅に哲也を迎えに行った。だが、降りる乗客の中に哲也の姿はなかった。その夜、万里子は哲也に訣別の手紙を書き、翌日繁男と小船の上で結ばれた。だが、万里子が戻った時、勝江の家を哲也が訪れていた。万里子は全てを哲也に告白しそれを許した哲也は会社に帰っていった。万里子が、繁男からののしられ、哲也から離縁の知らせを受けたのは、その翌日だった。