若い夫の吉成啓介を失ったたきは、一人娘の妙子と二人だけでその日その日を暮していたが、啓介の父母の宗一郎や静江はたきを嫁として認めようとしなかった。余りの仕打ちに、たきは妙子を連れて悄然と吉成家を去ったが、たきの兄の清造は根からの無頼漢で、妙子を奪って吉成家へ送り返してしまった。ある日、一人とり残されたたきの許に、幼い妙子が唯一人で帰って来たので、たきは喜びにむせんだが、やがて妙子が病気になると、又もや吉成家へ引取られる運命だった。それから何年かたち、水郷で鳩笛を売っている四十を過ぎたたきは、修学旅行の女学生の一人のボストンバッグに吉成妙子という名札を見てハッとした。妙子は無理に鳩笛をくれた小母さんに何となく懐しさを感じるのだった。それから又数年、女医になった妙子は、心臓外科を専攻し、青年医師高村と共に研究に余念がなかった。折も折、水郷地方に発生した集団伝染病に妙子は巡回医療班として赴き、渡し守になっているたきに再会した。だが年老いたたきは、ある時心臓弁膜症で倒れた。やがて小康を得たたきは、妙子の勧めで病院に炊事婦として勤めることになった。妙子の研究は完成し愈々実験段階に入った。そしてその危険な心臓手術を志願したのはたきだった。自分の母とは知らずメスを当てる妙子、その実験は見事成功した。今やたきを実の母と知って喜びにむせぶ妙子、そして高村との婚約も成立した。幸福な娘を抱くたきの喜びは大きかった。