足利末期、笛師三位春雅の弟子春方は、愛妻まろやが死んで半年目の命日に、路傍で童にいじめられていた仔狐を助けた。館で春方は、何処からともなく聞える琴の音に、彼と親友秀人、そして不ニ丸の笛に合せて、まろやが舞った過ぎし日を想い、傷心に沈んだ。おとうと弟子の冬年、秋信らが春方を慰さめようと花見に連れ出したが、心晴れぬ春方は唯一人森の中をさまよい、可愛い少女に出会った。仔狐の化身であるこの少女に連れられて別世界に赴いた彼はまろやに瓜二つの娘ともねと逢い再会を約して別れた。やがて狐の世界のともねの家では、春方に命を助けられた妹はつねに代り、姉ともねが春方の許にお礼奉公に行くことになった。ともねは許婚狐の七太郎と秋の満月の夜の再会を約し、母おこんに、人間に体を許せば双方共に死ぬという注意を受けた。侍女ともねの奉公に春方は日一日と生き甲斐を感じるようになり、ともねは彼を慕うようになったが、春方に心を寄せる春雅の娘あけみは悩んだ。やがて又、まろやの命日が来て、変らずまろやを想う春方の心を嫉妬したともねは母の許に戻ったが、おこんに追い帰され、その帰途、過ぎし日まろやへの恋に破れて野武士となった不二丸に捕えられた。七太郎に急を聞いた春方は無事ともねを救い出すと夫婦約束をと迫ったが、ともねは泣き伏すばかりだった。やがて、帝前での演奏に師匠春雅の指命は春方と思いの他、秀人に決まり、失意の彼は酒に酔いしれ再びともねに結婚を訴えた。切羽詰ったともねは自ら身分を明かし姿を消した。ともねを追う中、復讐に燃える不二丸に新られた春方の前に、突然花嫁姿のともねが立った。だが彼女も野武士の矢を受け、二人は抱き合ったまま湖中に姿を没して行った。