京都、堀川の東一帯に立ち並ぶ京染の店。その中に「丸由」と屋号を名乗る舟木由次郎。五十年来の老舗だが、慌だしい世相に若い職人は労働基準法を云々、最近休業の染屋が三軒もある時勢。由次郎は七十歳、後妻みつとは三十も違い、今では長女きわが一家の中心、ろうけつ染に老父を凌ぐ腕を見せている。新婚旅行の妹美代と清吉を京都駅で見送った帰途きわは画学生岡本五郎が、彼女を描いて出品している青樹社展覧会場に寄る。岡本はきわに好意を寄せている。きわはろうけつ染を、四条河原町の目抜きの店に進出させたいと思ったが、話は仲々に困難。それを知った近江屋は彼女の美貌に惹かれ、取引先の店を展示場にと約束するが妻やすの眼がうるさくてならない。きわ歯を法隆寺を訪れた折、桜を訪ねて来ていた阪大教授竹村幸雄、娘あつ子と知り合う。そして新緑五月、堀川の家を訪れた竹村との再会に喜ぶきわ。市内を散策する中、きわは彼と別れ難い気持になる。きわは阪大研究室に竹村を訪問。彼は助手早坂と猩々蝿を飼育、遺伝学の研究に没頭しているのだ。競争相手の婦人服デザイナー大沢はつ子と競って、きわは近江屋の紹介で東京進出にも成功。きわの出品作は燃えるような猩々蝿を一面に散らしたものだった。東大の研究発表会に来合わせた竹村と逢ったきわは、彼の発見した猩々蝿が飼育のミスから全滅したと聞く。加茂川の宴会で近江屋の手から逃れたきわは、友達せつ子の経営する旅館みよしで竹村と逢う。彼は岡山の大学に変るという。二人はその夜結ばれた。岡本は、きわに竹村との仲を忠告。怒りを浮かべるきわに、僕は貴女を尊敬しているのだと岡本は叫ぶ。数日後、竹村の娘あつ子の口から、竹村の妻が長い間病床に伏していると聞いたきわは驚く。彼女は竹村を忘れたいと願う一方、思慕の心をも押えきれない。大阪へ所用で赴いた折、きわは竹村と白浜に行った。そこに竹村の妻の病勢悪化の電話。彼女は死去。喪服に身を包んで告別式に出たきわは「もう少しのことだ」と云った白浜での竹村の言葉を思い出す。残酷な言葉。うちは違う、と、きわは泣きながら、心の中で叫び続けた。