欽一と章子とが知合ったのは小菅の拘置所であった。欽一の父は選挙違反で、章子の父は汚職で拘置されているのだ。--その日、欽一は友人に借りたオートバイに章子を乗せ、海岸に突走った。水着をつけた章子をみて、欽一はがく然とした。裸になった彼女は、もう完全に成熟した肉体の持主だった。二人は海浜で思う存分遊んだ。夕闇が迫ってダンスパーティが始まった。ハイボールを飲んで陽気になった二人はお互いに抱き合うように踊っていたが、欽一は章子の友人と称する大沢にいんねんをつけられて乱闘となったが、章子に強引に外へ引張り出された。自分のために欽一が喧嘩した、ということは章子にとって大きなショックであった。その翌朝、章子は母が入院している病院に行ったが入院料を請求され、しかも父の保釈金のこともあり、切破つまって自分の肉体を日頃言い寄っている大沢に売る決心をした。そして、大沢に会うと十万円の借金を申込みその夜金と引換えに自分の体を与える契約をした。その足で章子は欽一を尋ねたが会えず「昨日は楽しい夜でした。もう永久にお会いしません」という書置きをして去った。雨の降り始めたその夜、章子のアパートを訪れた大沢は、やにわに章子に挑みかかった。その時体ごと戸にぶつけるようにして入って来たのは欽一だった。死もの狂いの欽一に、大沢は打ちのめされ逃げ出した。そして、欽一の手には十万円の小切手が握られていた。その金は、選挙に熱中して家を省りみない父と別れて家を出た母から借りて来たものだった。理由がないから受取れない、という章子に欽一はやにわに彼女の髪をつかんで接吻した。これで理由が出来たろう、と茫然としている章子に小切手を握らせた。が、次の瞬間、彼女は小切手を投げ出し走った。追いかける欽一。そし力一杯章子を抱きしめた彼は、叫ぶようにいった。「悪かった……君が好きだったのに……済まなかった……」--。