船員の健次は暫くの間陸で暮すつもりで横浜に上陸した。その時、嘗て一緒に働いていた同僚矢島が死んだ時に、横浜の信造の所に居る矢島の子の養育費の貯金通帳と写真の入った名刺入とを信造の所にとどける事を頼まれて港町にあるホテル兼酒場の「海猫亭」に居住する信造を尋ねた。健次はそこで信造の口から海猫亭に働く気の強いはるみが矢島の娘である事を知る。酒をあびる様に飲む信造は、健次から受取った貯金通帳を費いこむ事を怖れ、それを酒場のマダム京子に保管を頼み、名刺入れを壁にかけた額のうしろへ穏した。その二人の会話の一部始終を聞いたはるみは愕然とするが、現在の父親である信造を心の底から慕っているのだ。信造の艀船で働く助手の三郎は、歌手にしたい程ホレボレとする程声がよかった。その歌声に信造がうっとりと耳を傾けながら、チビリチビリとウィスキーをなめている時、突然港の悪ボス酒崎組の大型発動機船が信造たちの艀舟の前を横切った。そのあおりで激しく動揺する艀舟に、信造の手から離れたウィスキーは過熱したエンジンに流れ込み、パッと焔を吹き出した。火焔に包まれる艀舟にランチを走らせて来た健次の機転で信造も三郎も事なきを得たが、焔に顔をあおられた信造は盲眼となってしまった。病床に悲憤をかこつ信造の為一同は金策に奔走しなければならなかった。健次は焦りの余り賭博に手を出し警察に上げられてしまうが、はるみの貰い下げで釈放される事が出来た。三郎も酒崎組に泣き込むが、強欲な酒崎は素寒貧の三郎に金をかした。その裏には、はるみを狙う蛇の様な情欲がどくろを巻いていたのだ。信造が京子に預けた貯金通帳も、酒崎の情婦である彼女に難癖つけられて返る見込みもなかった。金は健次の働きによって返したものの酒崎の手をかえての陰険な立退き要求に信造とはるみは海猫亭を出なければならなかった。悲嘆にくれる信造ははるみの前に真実を打ちあけ叔父の許に帰るようにすすめたがはるみは信造から離れる気など毛頭なかった。そこに三郎が幸運な話をもって来た。それはキャバレーのバンドの働き口である。二人は仲良くキャバレー「黒い瞳」のステージで働いた。執拗な酒崎は、はるみの事を思い切れず遂に自動車ではるみと三郎を拉致去る暴きょに出たが、パトロールカーに酒崎一味は難なく捕えられた。--鴎飛び交う港を今は歌手として成功し、ハワイ巡業に向う三郎を乗せた船が出て行く。その後を追う艀船に希望に満ちた健次とはるみの姿があった。