太閤死後、一年たった頃。京都の四条河原で、阿国歌舞技に人が集っていた。阿国は秀吉の寵愛でこれまでになった。それが、秀吉の一周忌に、徳川方の長島主膳の命令で、舞台に立たねばならなくなったのだ。舞台に立つと、声がかかった。消え失せろ! その主は駒木兵八郎だった。鼻が人一倍大きい。文武両道に秀れ、石田三成十人槍の一人だ。主膳の輩下と乱闘になった。それをよそに京洛一の美人、烏丸卿の養女千代姫は美剣士苅部十郎太と互いに熱いまなざしを向け合っていた。--兵八郎の家に、千代姫がたずねてきた。二人は乳兄妹だった。彼は千代姫へ想いを寄せていた。が彼は自分の容貌を知っていた。彼女はそれを気づかず、自分の恋人・十郎太が新しく十人槍に入ったので、力になってくれと頼んだ。十人槍の仲間が、楽三の酒屋に集ったとき、新入りの十郎太が兵八郎の鼻をからかった。兵八郎は千代姫のために怒りをおさえた。十郎太は彼が姫の乳兄妹ときき、率直にあやまり、二人は親友となった。主膳は姫に横恋慕していた。兵八郎は姫の心をとらえる言葉を十郎太に教えたり、姫の心を酔わす手紙を彼にかわって送ったりした。彼がいないと、十郎太は恋もできないのだ。露台で、兵八郎の口説に酔った姫は、十郎太を導き入れた。--関ケ原の合戦が起り、西軍は大敗した。赤星の裏切りで、十人槍の仲間もほとんど討死した。兵八郎は十郎太をかばって落ちのびた。十郎太は深傷の身を自ら河に投じた。死ぬ間際、彼はやっと兵八郎の姫への想いを悟った。--それから十年。千代姫は嵯峨野の寺院で、十郎太の想い出だけに生きていた。兵八郎は徳川方の追求から生きのび、時々、姫のもとへ現れ、町の出来事を面白く聞かせ彼女を慰めていた。主膳は目付役に出世し、姫がなびくのを待っていた。赤星はその手下になっていた。彼は兵八郎が姫をおとずれる途中を待ち受け、罠にかけた。鉄砲と大石を彼に浴びせた。姫のもとに、彼がやっと現れた。笠をとらぬまま、町の出来事を話し始めた。姫が十郎太の手紙を見せると、彼は震える声で読み始めた。その口調、その声。姫は月夜の露台できいた相手が誰だったかをやっと知った。笠をとると頭に巻きつけた布から血がにじんでいた。“しかりしこうして、四月十五日、藤木兵八郎藤原の正直、ついに幕吏に暗殺さる!”いいざま兵八郎はがっくりとくずおれた。姫への“心意気”を、その胸に秘めたままである。