蒔絵の料紙文庫、青磁の香炉、赤絵の羅漢鉢等並べてある高級美術店「スワン」の店主眉子は、かつての勧銀総裁の令嬢であり、外交官夫人であったが、今は未亡人として「スワン」を経営していた。彼女のもとに働いている野村玲子も父母を失って今はアパート住まいの一人暮らし。玲子の父野村博士の命日にかつての教え子である湯川尚一と直木五郎は終戦後墓前で再会した。湯川は臨海実験研究所に勤める傍ら大学の講師をやっていたが、直木は復員後、満足な仕事もなくヤミの中の生活をしていた。しかし直木は「五郎ちゃん五郎ちゃん」と親しみを失わない玲子に心を引かれ、現在の生活を精算することを湯川に誓う。湯川も喜んで金の苦面をかねて彼に好意をよせていた眉子に研究費として借り、直木の立上がりを心から期待して、貸してやるのであったが、直木はあせったためか、またしてもその貴重な金をだまされて使ってしまう。湯川は怒った。しかも玲子の前で「今すぐ金を返してくれ」と迫った。直木は玲子のとめるのも聞かずまたもやヤミの世に落ちて行った。その夜直木は武装警官隊のアミを脱した。翌日玲子は湯川の冷たい態度にふん然として彼女独断で金を返しに行くが「ぼくは直木に真人間に立返って欲しかったのだということを信じて下さい」と言われて玲子は考えた。やがて野村博士の墓前で、直木と玲子は誓い合い、将来の日もそう遠くはなかった。この様子を湯川と眉子はじっとみていたのである。