精神薄弱児ばかりを集めた特別学級の受持訓導古山は、その困難さに打負けて、学校を辞めようとしていたが、ちょうど青年訓導谷山が着任したのを機会に、校長は二年間の約束で、彼にその大役を受持たせる。ところが、手のつけようない児童の有様を見ては教育の施しようもなく、毎日教室の窓から野外スケッチをやっていた。子供達は男女合わせて十四五人--木登りの名人、歌の天才、算数の天才、自動車狂の少年、泣虫、理屈家、正義派と、それぞれ風変りな性格をもった子供達ばかりであった。黒板の一隅に記して日数の減るのを楽しみに嘆息ばかりしていた谷村も、いつしか、子供達になれてゆくに従って、情がうつり、顏を洗ってやったり、頭髪をかったりして面倒を見てやるのだった。苦笑の中に、谷村の心は、すっかり子供のことで埋められていた。楽しみにしていた夏休みも、却って物さびしくさえ思われるのだった。普通学級五年生の次郎は足が不具のため仲間外れになるばかりか、皆んなにいじ悪されていじけるばかりであった。次郎はいつか谷村の級の一員になっていた。クラスの正三は谷村の風邪が直るようにと、金光様へはだ詣りを続けて発熱し、一週間近くも欠席していたが、そのことを知って谷村の心は完全に「教育」に目覚めた。黒板のすみの日数が消えていた。特別学級の級長安兵衛は谷村の努力で、学校の給仕になったが、なかなか評判がよい。こうして、一歩一歩谷村の努力は築かれていった。ある日不良の千太が、木登りのうまい亀一をだまして、校庭のセント・ポールに登らした。ポールの一部にひびが入り、折れそうになるが谷村によって、危い所を救われる、千太は自分の恐しい行為にはじめて目が覚める。こうして学級は特別、普通の区別はなく、和気あいあいの気がはっていた。学芸会が近づいて、特別学級はオーケストラを演ずる。こうして約束の二年になったが谷村の心は益々不撓不屈の情熱に燃えてゆくのだった。