現代の東京、衆目の中で若い女性ばかりを狙った通り魔的な連続殺人事件が起こった。事件解決に起用された異常犯罪性格分析官・須磨節子は、被害者に同一化することによって犯人像を明らかにしていく特殊な才能を持っていた。精神的に危険でもある節子を支えるのは、同じ大学の精神医学研究室出身の夫・トモオだった。やがて、事件の鍵を握る容疑者として、新興宗教に走った人間を荒っぽい心理療法によって引き戻すことを仕事にしている、いわゆる逆洗脳士・阿久礼の名が浮かび上がる。トモオと同じく、阿久は節子と同じ研究室に籍を置き、さらにかつて2人は恋人同士でもあった。節子は、その危険すぎるほど孤高な哲学ゆえ、アカデミックな世界から追放され行方不明であった阿久と、捜査官と容疑者という立場で運命的な再会をすることになった。阿久への複雑な思いを抱く節子だったが、その間も事件は相次ぎ、さらにトモオまで殺されてしまう事態となる。トモオはアンドロギュヌス(両性具有)だった。犯行地点を結ぶことでAというイニシャル作りが出来ること、そして犯人が後天性色覚異常であることを推理した節子は、阿久を真犯人と確信し、彼を尋問しようとするが、逆に阿久による高度なマインド・コントロールを受け追い詰められ、研究室に閉じ込められてしまう。だが、そこにやって来て節子を襲ったのは阿久ではなく、彼の患者・ゆうきだった。一連の殺人は、逆洗脳の過程で隠された殺人願望を顕在させてしまったゆうきの犯行だった。危うい所で阿久に助けられた節子。だが呆然と佇む彼女のかたわらで、阿久の表情には時間を凍らせるような微笑があった。