土ぼこりにまみれ、中年の男バディ(ホマユン・エルシャディ)が車を走らせている。彼は職を探している男を助手席に乗せては、遠くに町を見下ろす小高い丘の一本の木の前まで無理矢理に連れてゆき、奇妙な仕事を依頼する。「明日の朝、この穴の中に横たわっている私の名前を呼んで、もし返事をすれば助け起こし、無言ならば土をかけてくれ」。クルド人の若い兵士も、アフガン人の神学生も、この依頼を聞き入れようとはしない。バディはジグザグ道を行き来しながら、自殺を手伝う人物を探し回る。最後に乗せた老人バゲリ(アブドルホセイン・バゲリ)は、嫌々ながらも病気の子供のために彼の頼みを聞き入れた上で、自分の経験を語って聞かせる。彼は結婚したばかりの頃、生活苦に疲れ果てて自殺を考えた。ロープを桑の木にかけようとして、ふと実が手に触れた。それをひとつ口に入れた。とても甘かった。桑の実が彼を救ったのだ。バゲリは日々の生活のかけがえのなさを淡々と語りつづける。車は老人の職場である自然史博物館に着き、別れ際にバディはもう一度依頼の念を押す。老人は「大丈夫、あんたは返事をするさ」と言って去る。車を出したバディに、写真を撮ってくれと頼む者がある。シャッターを切ると、娘は「ありがとう」と微笑んだ。この表情を目にすると、バディは車をUターンさせ、老人にもう一度会いに行った。「明日の朝、私が返事をしなかったら、石をふたつ投げて下さい。それから肩をゆすってください。眠っているだけかもしれないから。必ず、忘れないで」。バゲリは請け合って去ってゆく。バディは家で錠剤を飲み、タクシーで木の下まで行く。穴に横たわり、目を閉じる--。画面は一転して撮影風景のヴィデオ映像に変わる。スタッフに指示を出すキアロスタミ。バディも煙草を吸ってくつろいでいる。バディが乗っている(はずの)車は、いまもジグザグ道を走っている。