1964年、劇団状況劇場を率いて劇作家デビューした唐十郎は、1967年、新宿花園神社で行った紅テント公演で演劇界に衝撃を与えた。以後、同時代及び若い世代への影響は計り知れない。1988年、状況劇場を解散し、劇団唐組を設立した。多くの演劇人がより大きな舞台へ活躍の場を移す中、唐は紅テントにこだわり続けている。2006年11月、唐十郎アトリエ。唐は2階の書斎にこもっていた。春の公演に向けた新作戯曲の執筆である。タイトルは「行商人ネモ」。A4サイズのノートに手書きで書かれた戯曲を劇団員たちに配り、芝居作りが始まる。14人、平均年齢30歳の劇団員は全員俳優であると同時に、制作・美術・照明・音響など、舞台製作に関わる全ての役割をこなしている。さらに普段の生活や宴会の席でも、座長の要求に応えなければならない。金銭的には決して恵まれてはいないが、俳優としての、また唐という圧倒的な存在を受け入れるための修業に打ち込む劇団員たち。新年会、新人オーディション、「行商人ネモ」の40日間に渡る稽古、セット作り、大阪での旅公演、紅テントの設営や合宿生活など、180時間に及ぶ撮影で、唐と劇団員たちの、凄まじい演劇への情熱を描き出す。