愛人に毛皮を買って与えるため悪事を働こうとした青年に私服警官のテレンス・オマリーは公園のベンチの上で訓諭した。彼は中国人の娘を友とし犬を連れて靴のひもを売っている老人の姿を指して次のような物語を聞かせた。老人はかつては若い頃ブーメラング・ビルと呼ばれ、ニューヨークの暗黒街ではその豪胆と優れた腕力で人々に恐れられていた。彼はアニーという料理店の会計係をしている娘の危険を救ったのが縁で彼女の一家と親しくするうち、彼女の清らかな心に感化されて正道を歩む事の愉快さを悟わずかの給料で仕事を見つけた。アニーの母が病気で、転地を医者に勧められたとき、彼女はビルに相談した。愛する娘の母のために、彼は金策に心を砕いたが、もとより貧しい暮らしのこととて、望みの金の都合がつく道理がない。せっぱつまった彼は一度思い止まった昔の職業にどうしても考を及ぼさないわけにはいかなかった。今度1度限り、そう彼は決心して銀行に盗みに入ったが、警官に追われて洗濯屋をしている中国人の店に逃げこんだ。中国人は彼を隠してくれたが無邪気な子供に教えられて警官は遂にビルを捕まえた。1日アニーは彼を獄屋に訪ねてきて、母が重体であることとある若い鉱山技師が、結婚してくれれば静かな山の中に母を静養させると言っている旨を語って、どうしたら良いかと相談した。ビルは鉄窓のうちにあって、どうすることもできない。技師と結婚して母に孝養をお尽くしなさいという彼の頬には苦しい涙が流れた。2人は悲しい別れをした。ビルの放免される日は意外に早く来た。彼はアニーの幸福であるかどうかを知るために彼女の住む山の小屋へ来たが窓から眺めれば彼女の腕には赤子が抱かれ、帰り来たる夫を迎える彼女の頬には喜びが輝いていた。彼女の幸福を見たビルは、黙ってその場を去るより外にするすべを知らなかった。そして中国人の娘を引き取り、淋しい生活を続けているのであるーこれを聞いた青年は物語に心を動かされて正道を踏むことを誓って去った。