スパルタの城主メネラオスは、かねてから平和を愛する人であったが、久しい間の平和に堪えられなくなった麾下の諸將は、ことある毎に城主を説いて戦いを起そうと努めていた。一方メネラオスの愛妾ヘレンは、大の派手者でその衣裳は遠く当時のパリとも云うべきトロイから取寄せていたのであったが、これが一種の流行となって国中の女は皆これに倣うのであった。そのためにスパルタの衣裳屋は一向に振はず、その反対に外国製であるトロイの衣裳が盛んに賞用されるに至った。亦しても諸将はこの国家的打撃を口実に城主の前に開戦を唱えるのであったが、メネラオスは容易にこれを許諾の言を与えようとはしなかった。その中に当時諸国に艶名を唄はれていたトロイの城主パリスが、このスパルタを訪づれ手厚くもてなされていたが、ヘレンは国務に忙しくて彼女を顧みる暇のないメネラオスよりも、若くて美しいパリスにいつしか心惹かれ2人は、遂に手に手を取ってトロイに逃れた。いつもヘレンに悩まされていたメネラオスは、反ってこれを心安く思ったが、領民の怒りはその極に達し遂に所謂トロイ戦争なるものが勃発した。そしてその結果はスパルタ軍の機智によって、史上に有名な例の木馬が効を奏しさしものトロイも灰燼に帰した。そしてヘレンは死ぬべかりし命をお人好しのメネラオスに助けられ再びスパルタに帰ったが、果してヘレンはその後メネラオスを助けて平和な家庭的な女となり得たであらうか。