岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の佐藤直志さんは、仲間から“親分”と慕われている。東日本大震災では津波によって家を破壊され、消防団員の長男を亡くした。生きがいを失った男に何ができるのか?彼はひとつの決断を下す。元の場所に家を建て直そうというのだ。自分はきこりだ。山に入って木を伐ればいい。友人から田んぼを借り、田植えもしよう。仮設住宅には何があっても行かない。被災3日後には、その年の米作りを決意。5月には知人の田んぼで田植えをする佐藤さんの姿があった。まだ荒れた土地にそばの種を撒き、いち早く自活すべく立ち上がる。自ら山に入って大木を伐り、自宅を元の場所に建て直すという一大事業に奮闘。遅々として進まない市の復興計画を牽引するかのように、佐藤さんの信念は周囲を少しずつ動かしてゆく。土地に根差し、土地に生きる人々とその行く末を想う彼の強さと優しさは、生きることの本質を問いかけてくる。忍び寄る病魔、耐えがたい腰の痛み……。数々の障壁を乗り越えて、77歳の彼は夢を叶えることができるのか……。本作では、彼のその姿を震災1か月後から1年半に渡って追い続け、困難に屈しない“日本の老人力”を情感豊かに描き出す。