大阪の北出精肉店では、7代にわたり家族で牛を育て、手作業で屠畜を行い、その肉を店で販売、生計を立ててきた。700kgにもなる牛を屠り、見事な手つきで内臓を捌き、確かな経験と技術により、牛は鮮やかに肉になっていく。熟練の技を持つ彼らだが、「自分たちの仕事は子どもの頃から自然に倣い覚えたことで、何も特別なものではない。暮らしの一部だ」と言う。店主として店を切り盛りするかたわら、高齢化、過疎化が進む地域に尽力する長男。年に一度、心躍るだんじりにひときわ思い入れがある次男は、太鼓作りをしながら、屠畜の仕事から見るいのちの大切さを地域の学校で話して廻る。長女は一日のほとんどを台所で過ごし、家族のために食事を作る。中学一年生の孫は、将来肉屋になりたいという。そして、いつも微笑みながら家族を見守る87歳の母。そこにはごく平穏な家庭の日常があった。だが、家業を継いだ兄弟の心にあるのは被差別部落ゆえのいわれなき差別を受けてきた父の姿。差別のない社会にしたいと、地域の仲間とともに部落解放運動に参加するなか、いつしか自分たちの意識も変化し、地域や家族も変わっていった。2012年3月、輸入肉や大規模屠場への統合の影響によって、彼らが利用し102年続いてきた公営屠畜場が閉鎖されることになった。やがて、最後の屠畜を終え、北出精肉店は新たな日々を重ねていく……。