1910年。ある小さな町で、1人のジプシーの赤ん坊が生まれる。人形好きな、まだ若い母親は、その子に“人形”を意味する“パプーシャ”と名付けた。呪術師は、“この赤ん坊は恥さらしな人間になるかもしれない”と予言する。1949年。パプーシャ(ヨヴィタ・ブドニク)たちジプシーの前に、作家で詩人のイェジ・フィツォフスキ(アントニ・パヴリツキ)という男が現れる。秘密警察を殴って追われた彼は、隠れる場所を探していた。1921年。まだ少女のパプーシャは、泥棒が隠した盗品の中から、文字が印刷された紙を見つける。ジプシーは“悪魔の力”と呼んで文字を忌み嫌ったが、文字に惹かれる心を抑えられないパプーシャは、鶏を授業料代わりに、白人に読み書きを教えてほしいと頼む。だがある日、町の酒場で起きた揉め事がきっかけとなって、ジプシーたちの馬車が焼き討ちされた。パプーシャには、それが文字を覚えた自分への天罰に思えた。1949年。ジプシーたちに混じって暮らしていたフィツォフスキは、何気なくパプーシャの口を突いて出た言葉を耳にして、彼女の詩の才能に気付く。1925年。15歳のパプーシャは、父の兄に当たる演奏家のディオニズィ(ズビグニェフ・ヴァレリシ)と結婚。ディオニズィが、パプーシャの美しさに魅かれたのだ。だが、パプーシャは遥かに歳の離れた夫を拒む。1952年。ジプシーたちの定住政策が政府によって実施される中、フィツォフスキはパプーシャの詩を、ポーランド語に翻訳して出版することを思いつく。フィツォフスキは大物詩人のトゥヴィムに相談。トゥヴィムは、パプーシャの詩にある簡潔さと平明な強さにすぐさま魅了される。これをきっかけに、やがてパプーシャは、ジプシー詩人として大きな注目を集めるが……。