2011年。気鋭の映画監督トーマス・ラング(ダニエル・ブリュール)は、2007年にイタリアの古都シエナで起きた殺人事件の映画化をオファーされ、そのリサーチのためローマに降り立つ。ここ数年、思い通りの映画を撮ることができずにいた彼にとってこの新作プロジェクトは再起のチャンスでもあった。ローマ在住のアメリカ人ジャーナリストで、事件に関するノンフィクションの著者でもあるシモーン・フォード(ケイト・ベッキンセイル)と対面したトーマスは、映画化するならフィクションにすべきだとアドバイスされる。当時、シエナの大学に通うイギリス人留学生エリザベスが、共同フラットの自室で遺体となって発見、まもなく彼女のルームメイトのアメリカ人留学生ジェシカとその恋人のイタリア人青年、そしてエリザベスのバイト先のバー経営者の3人が殺人容疑で逮捕された。だがその後、ジェシカのセクシーな容姿や奔放な振る舞いが脚光を浴び、過熱したメディアは虚実入り混じったスキャンダル報道を連発。すでにジェシカは一審で有罪判決を受け、今まさに世界中が注目する控訴審が始まろうとしていた。シモーンとともにシエナを訪れたトーマスは、想像をはるかに超えたメディアの狂騒に驚きを隠せない。警察や裏社会の事情に通じる謎めいた人気ブロガーのエドゥアルド(ヴァレリオ・マスタンドレア)は、訳知り顔でジェシカは無罪だとトーマスに言い放つ。そんな中、自宅があるロンドンに一時帰国したトーマスは、映画関係者とのミーティングに参加するが、まだ作品の方向性も定まっていない段階で有名女優の起用にばかり興味を示す彼らに違和感を抱く。さらにトーマスはプライベートでも離婚した女優の妻との間で、ひとり娘の親権を巡り揉めていた。その問題から現実逃避するかのように再びイタリアへやってきたトーマスは、エリザベス殺害事件を単なる犯人捜しの再現映画にするのではなく、独自の真実をあぶり出す作品にしたいと考え、ダンテの「神曲」をベースにした3部構成のアイデアを思いつく。だがそれはセンセーショナルな犯罪スリラーを作りたがっているプロダクションの意向に反するものだった。創作上の苦悩に苛まれ、ドラッグに依存するようになったトーマスは、エドゥアルドこそがエリザベス殺しの真犯人ではないかと妄執に囚われていく。そんな彼の心を癒やしたのは、シエナの街のガイド役に雇ったイギリス人大学生メラニー(カーラ・デルヴィーニュ)の存在だった。彼女に娘にも似た愛おしさを感じるようになったトーマスは、懸命に脚本の執筆を続けていく。それは被告のジェシカではなく、何者かによって輝かしい未来を絶たれた被害者エリザベスとその遺族の立場に寄り添った“愛”の物語であった……。