鹿児島県喜入地区の小さな町。走ることが大好きな小学4年生の風間武(山時聡)は、ある日の下校中、バアちゃん(松原智恵子)に呼び止められる。バアちゃんは最近、武がジイちゃん(津川雅彦)のところに遊びに来なくなったことを気にしていたのだ。武は去年から寝たきりになったジイちゃんを見るのが怖くて、足が遠のいていた。武がジイちゃん、バアちゃんと呼んでいる二人は、本当は隣の家のおじさんとおばさんだった。早くに親を亡くした父・俊之(西村和彦)を支えてくれた二人を、武たち家族は本当の家族のように思って暮らしていた。その夜、武が姉・裕美(平岡真衣)に起こされ、ジイちゃんの家に駆けつけるとジイちゃんはすでに危篤状態だった。そして明け方、ジイちゃんは息を引き取った。葬儀の準備が進む中、武は裏の小屋でジイちゃんとの思い出に浸っていた。そこにヒサオと名乗る少年が現れ「競走しようぜ」と武を誘う。ヒサオは驚くほど足が速く、武にも早く走るコツを教えてくれた。武はジイちゃんを失った哀しみを振り切るようにヒサオと夢中になって走っていた。ジイちゃんの家に戻った武は、俊之と近所の人たちの会話からジイちゃんが若い頃陸上の選手で、俊之たちの駅伝チームの監督をしていたことを知る。だがチームが優勝したその日に脳梗塞で倒れたのだ。やがて杖で歩けるまでに回復。武とジイちゃんとの思い出はそれから後のことだ。翌日、葬式の始まる前に、武は再び現れたヒサオと「すごい宝物が埋まっている」という柚子の木の根元を掘る。出てきたのは古ぼけた煙草の缶だった。「ユウコに渡してくれ。俺たちの宝物なんだ」そう言い残してヒサオは走り去る。ユウコって誰なんだと武は途方にくれる。葬儀を終えた後、バアちゃんはジイちゃんが秘めていた深い愛を語り始める。若かった頃のジイちゃんは、バアちゃんと生まれてくる赤ん坊のために国体出場を辞退した。仲間や地元の人たちには卑怯者呼ばわりされたが、将来、家族が負い目を感じることがないよう走るのをやめたのだ。それからは、家族のために一生懸命働いてきた。そして初めての結婚記念日に、柚子(ユウコ)というバアちゃんの名前にちなんで柚子の木を植えた。そのジイちゃんの名前は久雄であった……。