岩手県陸前高田市。荒涼とした大地にぽつんと佇む種苗店“佐藤たね屋”。東日本大震災の津波で自宅兼店舗を流された佐藤貞一は、その跡地に自力でプレハブを建て、営業を再開した。手描きの看板に手作りの仕事道具、山の落ち葉や鶏糞を加えた苗床の土。水は手掘りした井戸からポンプで汲みあげる。その一方で、佐藤は自らの被災体験を独習した英語で綴り、自費出版していた。「The Seed of Hope in the Heart」と題したその一節を朗々と読みあげ、さらに中国語やスペイン語での執筆にも挑戦。さらに佐藤は、地域の津波被害の歴史を調べ、過去の文献の信憑性を自力で検証していた。その姿は、ロビンソン・クルーソーのようにも、ドン・キホーテのようにも見える。不得意な外国語で書き続ける佐藤は、誰に何を伝えようとしているのか……。