東京都千代田区立神田一橋中学校通信教育課程では、毎月2回の休日になると、戦後、中学校で義務教育を受けられなかった高齢の生徒たちが面接授業に通ってくる。生徒たちの表情は、60年ぶりの学校生活にとまどいながらも、学ぶ喜びに満ちている。教鞭をとる教師たちは生徒の子や孫の年齢だが、生徒たちの人生経験を踏まえた、温かい眼差しで授業が展開される。休み時間には、まるで十代の少女に戻ったかのように互いの家庭の事情を語り合い、笑い合う生徒たち。そんな学校生活の日常に2009年から2014年までの5年間カメラを向けた。本作では6人の生徒の背景にも寄り添い、それぞれ異なる学校にたどりついた事情を映し出す。戦争で大黒柱の父を亡くし働かざるを得なかった人、戦時下、空襲で焼け出され満足な教育が受けられなかった人など、戦争は子どもたちから教育という大切な宝を奪った。そして、高度経済成長に向かう日本社会の片隅にも、貧困により中学校に通えず、働くほかなかった子供たちがいた。やむを得ない事情によりようやくたどりつた学び舎で先生や同級生と出会い、生徒たちは学びの前に青春時代に帰る。生徒のなかには、夫や妻の介護、自身の病気を乗り越え、中学で学んだ基礎をもとに高校進学を目指す者もいる。