昭和18年、日本が本格的な国策へと乗り出す中、漫画家が団結し国策に協力する日本漫画奉公会が設立される。そして一人の老人が内務省の検閲課に呼ばれ、検閲官と対峙しながらポツリポツリと過去の記憶を語りはじめる。この老人こそ、日本漫画奉公会の会長であり、漫画を職業として確立した北沢楽天、その人だった。若かりし頃の楽天は風刺画家として福沢諭吉にその才能を見出され、日本初の職業漫画家となった。一気に売れっ子になり一躍時代の寵児となった楽天は、政治家すら一目置くほどの存在に。多くの弟子を養成し、次々に新しい表現方法に挑み、それまでポンチ絵として蔑まれていた風刺絵を漫画という一つのジャンルとして世に広く浸透させた。開拓の明治、浪漫の大正、そして激動の昭和へと時が移り、やがて黒く強大な時代の渦が、楽天や漫画はおろか、日本全体をも飲み込んでいく……。