1911年、ベルリンに生まれたブルンヒルデ・ポムゼルは、第二次世界大戦中、1942年から終戦までの3年間、ナチスの宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの秘書として働き、近代史において最も冷酷な戦争犯罪者のそばにいた人物である。いくつもの高精度カメラは、ポムゼルの深く刻まれた顔の皺や表情だけでなく、瞳の奥に宿す記憶をも鮮明に捉える。幼少の頃の父親の思い出、初めて出来た恋人の話、ユダヤ人の友人の面影、そして“紳士”ゲッベルスについて……。103歳とは思えぬ記憶力で、ポムゼルはカメラに語りかける。また、ナチスを滑稽に描くアメリカ軍製作のプロパガンダ映画や、ヒトラーを揶揄する人々を捉えたポーランドの映像、ゲッベルスがムッソリーニとヴァカンスを楽しむプライベート映像、そして戦後、ナチスのモニュメントを破壊する人々やホロコーストの実態を記録した映像等、世界各国で製作された様々なアーカイヴ映像が挿入される。「いわれたことをタイプしていただけ」と語りながらも、ポムゼルは時折、表情を強張らせて慎重に言葉を選んでいく。それは、ハンナ・アーレントにおける“悪の凡庸さ”をふたたび想起させるのだった。