多摩川の河口でシジミを獲るホームレスの老人。彼は捨てられた十数匹の猫と共に、干潟の小屋で10年以上暮らしている。80代半ばと思えない強靭な肉体を持つその老人は、シジミを売ったわずかな金で猫のエサと日々の糧を得ている。そんな彼は素手で漁をするが、それはシジミと共存していく為に、成長途中の稚貝は絶対に獲らないと自ら厳しく決めているからであった。だが近年、一部の人々により無計画な乱獲が始まり、シジミの数は激減。また2020年のオリンピックを目前に控え、干潟には橋が架かり、沿岸には高層ホテルが建てられていく。変わりゆく東京の姿を複雑な思いで見つめる老人。九州の炭鉱町に生まれ、返還前の沖縄で米軍基地に勤務。帰国後は建築会社を起業してバブル期の東京の街を作りあげてきた。彼の脳裏には、波乱に富んだ自身の人生が浮かび上がるのだった……。