村上春樹の翻訳家であるメッテ・ホルムは1995年、『ノルウェイの森』と出会って以来、20年以上に亘り、彼の作品をデンマーク語に翻訳してきた。村上春樹の作品はこれまで世界50言語以上に翻訳されてきたが、そのほとんどが英語からの翻訳となり、メッテのように日本語から直接翻訳することは珍しい。2016年、村上春樹がアンデルセン文学賞を受賞し、デンマークを訪れ王立図書館でメッテと対談する瞬間をキャメラが捉える。そして同時期、メッテは『風の歌を聴け』の一文について想いをめぐらせる。現実と空想の世界が重なり合う村上春樹の世界観は翻訳家によって解釈が異なる。メッテは世界中の村上春樹の翻訳家たちと議論を重ね、理解を深めるため日本を訪れる。故郷の芦屋を歩き、小説の舞台となる地を巡る。やがてキャメラは、村上春樹の小説に描かれている並行世界(パラレルワールド)を映し出す。深夜のデニーズ、バーカウンター、古いレコード、ピンボール、地下鉄、首都高速道路、公園の滑り台、巨大なかえるくん、そして夜空に浮かぶ二つの満月……。メッテは独り村上春樹の世界に潜り込んでいく――。