1973年の軍事クーデターの真実を世界に伝えた「チリの闘い」のパトリシオ・グスマンが、「光のノスタルジア」「真珠のボタン」に続き、チリの歴史的記憶と政治的トラウマを、その人為を見てきたアンデス山脈の神性との関係で描く三部作ドキュメンタリーの最終章。世界で初めて選挙によって選出されたサルバドール・アジェンデの社会主義政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆した軍事クーデター。ピノチェト政権は左派をねこそぎ投獄し、3000人を超える市民が虐殺された。監督のパトリシオ・グスマンは「チリの闘い」の撮影後、政治犯として連行されるも釈放され、フィルムを守るためパリに亡命、映画を完成させた。「2度と祖国で暮らすことはない」と話すグスマンにとってアンデス山脈とは、永遠に失われた輝かしいチリ=夢の象徴である。いまなお続く、ピノチェトの遺産……新自由主義の実験の場となった母国の行く末を憂いて、時間的・空間的距離を自在に飛翔するカメラとともに、グスマンとチリの人びとは内省の旅を続ける。絶望をこえ、過去と未来を見据え、どう生きるべきか、私たちの「今」を問う力作。2019カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞、インディペンデント批評家賞W受賞。