1942年11月29日。戦火から逃れ、モロトフ(現在のペルミ)に疎開していたキーロフ記念レニングラード国立オペラ・バレエ劇場は、寒さと食糧不足に悩まされながら、12月9日に初演を迎えるバレエ『ガイーヌ』のプレミアに向けて練習を続けていた。しかし、振付家のニーナ・アニシモワ(インナ・ステパーノヴァ)から連日のように変更が伝えられ、作曲家のアラム・ハチャトゥリアン(アンバルツム・カバニアン)は修正に追われ苛立っていた。ソリストのサーシャ(ヴェロニカ・クズネツォーヴァ)は匿名でアラムの好物を差し入れ、密かに応援していた。上演前の検閲にやって来た文化省のプシュコフ(アレクサンドル・クズネツォフ)は、サーシャに色目を送り、失業寸前のサックス奏者アルカジーにアラムの動向を密告するよう命じる。重圧に押しつぶされたアラムは、入院騒ぎを起こす。ソビエトで活躍する気鋭の作曲家ショスタコーヴィチとオイストラフが陣中見舞いに現れ、親友たちとの音楽談義に癒されたアラムは、作曲家としての矜持を強くする。実はアラムとプシュコフは同じ師のもとで音楽を学んでいたが、頭角を現すアラムにプシュコフが暴言を吐き、絶縁したのだった。プレミアまで1週間と迫るなか、プシュコフは完成した『ガイーヌ』の結末を変更した上に、最終幕に士気高揚する踊りを追加するよう命じる。誰もが不可能と訴えるが、アラムは作曲家人生を懸けて理不尽な挑発に立ち向かう決意をする。彼は、両親の祖国アルメニアでトルコが残虐行為を行った事実を思い起こす。世界がそれを黙殺したことがファシズムの誕生を許し、ユダヤ人虐殺が続いた。アルメニア人の悲しみと怒りを忍ばせつつ、プシュコフを満足させなければならない。アラムが深夜のホテルで白い楽譜に向き合っていると、汽車の音が聞こえてくる。やがてその音は汽車と線路が奏でる激しいリズムに変わり、鍵盤の上でひとつのリズムが踊り始める……。