2013年6月、ブラジル・サンパウロの路上で公共交通料金賃上げに対する大規模な抗議デモが起こる。当初はバス料金20セントに対する要求だったが、政治に対する深い嫌悪感のなかで、物価上昇や重税、LGBTQ+や女性の権利、人種差別など、様々な問題に対する抗議へと広がっていった。そして2015年10月、公立学校の予算削減案に反対するサンパウロの高校生たちが、自分たちの学校を占拠し始める。この運動はブラジル全土を巻き込み、翌月には200以上の学校が占領されるまで発展する。ブラジル社会で高校生たちによる大きな変革の兆しが現れるも、学校占拠から3年後、ブラジル初の極右政権の成立とともにその期待は裏切られることになる。14年間続いた左派政権は度重なる汚職や治安悪化によって群衆の支持を失い、“ブラジルのトランプ”と称されたジャイル・ボルソナロにその座を明け渡したのだ。本作はそんな激動の2010年代のブラジル社会を、学生たちの視点から描いている。3人の高校生が当時の運動を振り返りながら、ヒップホップ・ミュージックに乗せてそれぞれの意見をラップバトルのように衝突させる。進歩的な公共政策の下で育った最初の世代である彼らが、急速に右傾化、混迷化していくブラジル社会を糾弾する過程を通して、学生たちの社会に対する希望と不安が浮かび上がってくる。